「死にたい」――身近な人からそんな相談をされたら、あなたはどうしますか?
先日、そんな印象的な書き出しで始まる記事が、Yahooニュースのランキング上位にありました。
「死んじゃダメ」はNGワード 身近な人から死にたいと相談されたら気をつけたいこと
実は日本では、年々自殺者が増えています。昨今コロナ禍で世の中が混乱しているため、ますます増えていくかもしれません。この記事がアクセスランキングで上位にあることからも、関心の高さが伺えますし、誰もが他人事でなくなってきていると感じます。
そんなとき、どんな言葉をかければいいのか…。そう思う方も多いと思います。今回は言葉がもつ影響力を解説しつつ、言葉についてどのように考えれば良いか、私なりの考えを述べたいと思います。
■言葉の力が及ぼす影響
私は歯科医師であり、精神科医やカウンセラーではありませんが、様々な場所で言葉の重要性をお話させていただいています。それは、人間は言葉によって、生きることも死ぬこともできるということを、現場レベルで感じているからです。
「何を大袈裟な…」と思いますか?しかし私達は日常生活で、言葉の力の凄さを経験しているはずです。
例えば、大好きな人に嬉しい言葉を言われた時は、その日1日中、いや1週間だって嬉しい気分が継続しますよね。または、仕事が順調に終わった1日でも、最後に上司にちょっと嫌味を言われただけで、その日一日が嫌なものとして感じられることだってあるはずです。
更にこんな話もあります。日本語や英語など、話す言語によって性格もその国の文化に近づくということがあるというのです。わかりやすい例で言いますと、日本人が普段からアメリカ英語で話していると、仕草や言動もだんだんとアメリカ人っぽくなっていきます。逆のパターンで、中国人が日本語を喋ると、性格が日本人に近い方向に変わってくるという話も耳にします。
■治療の前に医師がまずやるべきこと
このように、言葉には力があり、私達はその影響を当たり前のように受けています。これを突き詰めると、人の生死を左右することになるというわけです。
私が医師として言葉をかける際に、特に大事にしているのが、患者さんに「病気を自分で治せる」と信じてもらうことです。これがなければ、特に大きな病気は治らないと思っています。
この実例として、先日奇跡みたいなことが起きました。ゴルフボール大くらいの乳がんが皮下リンパ節位に転移している患者さんが来院されたときのことです。
彼女は大変な状態でした。最初に彼女を診た医師からは、「もう治療法がないから、とりあえず抗がん剤をやるしかないですね」と言われたのだそうです。そこでとりあえず1回抗がん剤をやってみたところ、吐き気が出て、すぐに髪の毛も抜け始めて、2日間食べることができないという状態でした。
このとき、「もうこのままでは死んでしまう、助けてください」と彼女は言っていました。その様子を見て、本当に死んでしまうと感じました。「もう治療法がない」という言葉に、治るという気がすっかり無くなってしまっていたのです。
そこで私は、「僕のことを信じてくれるのなら、色々な方法と英知を組み合わせて、絶対治す自信がある」と言いました。また、彼女のお子さんや周囲の人達が一致団結している中に、私も仲間に入れてもらいました。そしてみんなで彼女のがんが治るように、精一杯応援したのです。
その後、治療の結果、がんは完全に消えました。絶対治らないと言われていた状態から、全部治すことができたのです。
もちろん言葉だけではなく、あらゆる治療を施しました。しかしその前に、「絶対治します」という一言や周りの方の応援で、彼女が本気で「自分は治せる」と信じたこと。彼女の様子を見ていると、それが治療の効果に大きく影響したと、私は思うのです。
だから私はいつも、まず患者さん自身が「自分は治せる」という気持ちになってもらうことを大切にしています。
■細かいテクニックよりも重要なこと
言葉をかけるということに関して、世の中でよく見るのは、「あの言葉はNG」「この言葉はOK」といった、テクニックの話が多いと感じています。それも確かに大切なのですが、私はもっと重要なことがあると思っています。
それは、あなたが自分の言葉通りの生き方をすることです。
自分の言葉通りの生き方をすることは、簡単に言えば有言実行です。例えば医者が「健康的な食生活をすること」と指導をしているのに、その医者が甘いお菓子ばかり食べていたり、ものすごく太っていたりしたら…。どんなに良いことを言っても心に残りませんよね。
語った内容は自分に返ってきます。その覚悟を持っているかどうか、常に自分に問いかけてみてください。「誰が言ったのか」によって、その言葉の影響は全く違うものになります。
覚悟をもって、心から相手のことを想い、言葉を発する。
そうするとあなたの言葉の重みも変わってくるはずです。
私も政治の世界に足を踏み入れて、医療の世界とはまた違った責任の重さを感じています。自分の言葉がどのような影響を与えるか、言葉通りの生き方ができているか、常に問いながら、皆様の希望となる言葉を発していきたいと思います。